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片腕は雌ドラゴン?近代化学の父ラヴォアジェ(2)

ラヴォアジエの弱点

 化学者・エコノミスト・財政家……そんな万能なラヴォアジエにも弱点がありました。そうこなくっちゃ! と思ってしまう私ってかなり意地が悪い? でもパーフェクトな男性には魅力感じないのよね〜。と、まあそんな個人的な好みはともかく。ラヴォアジエの弱点は語学と絵画でした。あと、勘が良く見通しを立てるのは上手でしたが、実験の道具の細かい準備は得意ではありませんでした。

そんなラヴォアジエの弱点を補って片腕として活躍したのが夫人のマリー・アンヌだったのです。マリー・アンヌは超裕福なブルジョア、徴税請負組合の組合長の娘として生まれました。彼女の父は娘の結婚相手として「いかにも有望な若者」な部下、ラヴォアジエに目を付けたのです。ふーむ、実家も職業も奥さまもお金持ちだったんですね……。

学習環境としても幸せな結婚

 ラヴォアジエの生きた時代の上流階級の結婚は「形式上」のもので、既婚でも自由恋愛はあたりまえ、という時代でした。でも夫妻の場合はとても仲睦まじく(その様子は肖像画からも伝わってきますよね)夫のラヴォアジエはただひとりの愛人も知られていない、という当時の著名人としてはきわめて珍しい男性!

 たった14歳で15歳年上の夫と結婚したマリー・アンヌですが、これは当時としても早婚。でも彼女にとってはこれが幸いでした。上流社会の女性でも、当時としては得ることの極めて難しかった「教育」をふんだんに受けることができたのですから。ラヴォアジエと結婚したおかげで、ね。天才ラヴォアジエじきじきの指導に加え、彼の元には一流の科学者たちが集まっていて、その場にいながら「先端の科学」を身につけることができてしまう! 

 そして、ラヴォアジエの館には自分専用の化学実験室があるのですから。そこにある器具類はヨーロッパ随一のもの。ほとんどが特注で、びっくりするくらいのお値段。大ブルジョア・ラヴォアジエとの早婚のおかげで素晴らしい「科学的教育」を受ける環境を得ることができた、ってわけ。

語学も絵画も得意な美人妻

しかも、マリー・アンヌは絵画の才能にも恵まれていて、冒頭に紹介した夫婦の肖像画を描いた巨匠ダヴィッドから直々の指導を受けています。ちなみに夫婦の肖像画のお代金は七千フラン。1リーブル≒一万二千円として今の代金に換算するとなんと八千四百万円! たった一枚の絵に……はあ。とまあ庶民のため息はさておき、ラヴォアジエの発行した教科書『化学綱要』の精密かつ正確な挿絵はそんな絵画の才能のあったマリー・アンヌの手によるものです。 さらに語学の苦手な夫のために、マリー・アンヌはラテン語、英語、イタリア語を身につけました。アイルランドの化学者、カーワンの『フロギストン論』など訳書をいくつも書いています。しかもマリー・アンヌの序文・注釈付きで発行したものも! このことからも、彼女が化学の理論と実際に通じていたことがわかります。このように勉強熱心な右腕である上、美人妻ときた! ダヴィドの作品や、彼女自身の手による肖像画からもその美しさは伺えます。それだけでなく実際、マリー・アンヌはフランス革命時に「パリの美人」リストに載ったこともあるんですよ〜。

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マリー・アンヌの手による自画像

男の度量次第?

 ここで、男性陣はひょっとしたら「ちえ、いい嫁さんもらったものだな」と思うかもしれませんが……。才能ある妻と結婚しながら、その才を潰してしまった科学者だって少なからずいるのです。アインシュタインの最初の妻、ミレヴァしかり。ノーベル化学賞を受賞したフリッツ・ハーバーの妻、クララ しかり。ミレヴァはアインシュタインの同級生で物理学者を志していたにも関わらず、家事育児でその夢を断念。クララ・ハーバーも同じく科学者志望だったのですが、やはり家事育児で研究から遠ざかることになり、神経を病んでしまいます。さらに、夫の毒ガス開発に反対して、彼女は自殺してしまいます。妻の才能を活かすも殺すも、夫次第なのでは? と思われる、二人の女性の事例ですね。

(続きます)

【参考文献】 化学物語25講―生きるために大切な化学の知識
エミリー・デュ・シャトレとマリー・ラヴワジエ―18世紀フランスのジェンダーと科学

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