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内田麻理香プロフィール || 出版物・連載・依頼原稿 | テレビ・ラジオ出演 | 講演・講師 | 賞歴・メディア掲載歴

産後だって母子一体-母乳・母性・ホルモン-(3)

 3回に分けて長々と続けてきた母乳のお話。今回は、最終回で「母性」と母乳の深い関係をお話しします。そもそも「母性」って何でしょうね。手元にある国語辞典によると、「女性が持っている、母としての性質」とあります。さすがに、「女性はひとり残らず母性本能がある」とか、「妊娠と同時に母性は誕生する」という幻想は現代では消えつつあると思うのですが。いや、まだそんなこともない?でも、この「母としての性質」ともいうべき母性行動が、授乳行為と大いに関係しているという研究結果があるのです。。

女性ホルモンと母性

 まずは母乳に関係するホルモンのおさらいです。プロラクチンオキシトシンの2種類がありました。プロラクチンは母乳を生産するホルモン、オキシトシンは母乳を絞り出すホルモンです。詳しくはこちら(第1回)を参照して下さい。
このプロラクチンオキシトシンが母性行動(子供を抱き、あやし、食事を与える)のスイッチを入れているというのです。
 まずは、プロラクチンプロラクチン分泌に関わる視床下部のある部分を破壊するか、または、プロラクチンの作用を抑える物質を投与するという動物実験です。そうすると、母性行動がみられなくなるというのです。そして、プロラクチンの作用を抑える物質を除くと、母性行動は回復します。

オキシトシンを分泌しない母マウスは?

 そして、もう一つの母乳に関わるホルモンであるオキシトシンに関しても、母性行動と関係があるという研究結果があります。オキシトシンの分泌に関わる遺伝子を破壊したマウスでの実験です。このように特定の遺伝子の作用を調べるために、その遺伝子を破壊するように遺伝子操作したマウスのことをノックアウトマウスと呼びます。この雌のマウスは、仔マウスに対して明らかに授乳行動や接触が悪く、仔マウスは死に至ってしまうのです。

「産みの母」でなくても?

 ちなみに、このオキシトシンの分泌は「赤ちゃんが吸う」という刺激で起こります。でも、オキシトシン分泌のトリガーとなるものはそれだけではありません。まだ詳しいメカニズムはわかっていないのですが、赤ちゃんのにおいや泣き声、触感など五感を通して様々な刺激によってプロラクチン分泌に関わっているのです。そして、子に対する接触、すなわち母性行動そのものでもオキシトシンの分泌が始まるのです。そのことを表す研究結果をご紹介します。

 処女ネズミのそばに、生まれたばかりの赤ちゃんネズミを置いて、1週間近くいっしょにすると、母性本能に目覚め、体を丸め赤ちゃんを抱きかかえるようになります。この不思議な行動の秘密は、1979年に米国で解き明かされました。オキシトシンを処女ネズミの脳に注入してやると、46%のネズミが2時間以内に完全に「母親化」し、あらかじめ女性ホルモンで発情させておけば、その割合は85%にも増えました。接触していることでオキシトシンが分泌され、母性行動が発現したのです。そして、オキシトシンそのものを注射してやれば、母性行動が発現するまでの期間はぐっと短くなるというのです。

 上の研究結果は、「おばあちゃんでも母乳が出るようになった」というよく耳にするエピソードを思い出しますね。赤ちゃんの世話をしたり、出ないお乳を吸わせているうちにオキシトシンが分泌され、母乳が出るようになったのでしょう。授乳行為と母性行動がオキシトシンを介してこれだけ密接に関わっているのです。

母乳栄養ではなく母乳育児

 授乳行為を通して女性ホルモンが分泌され、母性行動が発現する。赤ちゃんに母乳をあげるということは、単に栄養をあげているだけではないのです。同時に、授乳行為することによって「母親」にしてくれるのです。「母乳栄養ではなく母乳育児なのだ」と言われる所以もここにあるのかもしれません。

 実は、研究員Aも研究員Bに母乳をあげているとき、2度ほどミルクと混合にしよう、または切り替えようとした局面がありました。一度目は、研究員Bが入院したときのこと。付き添いを他の人と交代してもらうためにミルクも飲んでもらおうとしたのですが、哺乳瓶を受け付けなくてダメ。結局、所長にはヨーグルトその他でなだめすかして乗り切ってもらいました。迎えにいった時は憔悴し切った父子の姿が、、、。
  二度目は、研究員Bに歯が生えたときのこと。両方の乳首に亀裂が入ってしまったので、これは母乳続けるの無理だ、と思ったのですが、今度はミルクの味を嫌がってダメ。仕方がないので亀裂の入ったまま飲ませ続けました。今思い出してもイタイ、、、。ともかく、「母乳育児続けるべし」と研究員Bが判断したのかもしれないな、と今になって思っています。なんと言っても研究員Aは未熟な母親ですから。

母性行動そのものが母性を生む

 でも、授乳しなければ母親になれないのか?というわけではありません。先にも書いた通り、赤ちゃんに接触したり世話をするという行為でもオキシトシンが分泌されます。ですから、母性行動そのものが母性行動を促進するのです。赤ちゃんの世話の繰り返しを通して、母性が形成されていくと言えましょう。

 母性行動でもオキシトシンが分泌されるということは、「母性行動→母乳分泌」となることも示しています。ですから、母乳不足に悩んでいる場合、赤ちゃんにべたべたするということも効果的かもしれません。裸の肌どうしを密着させると良い、という話も聞いたことがあります。でも、ストレスで母乳不足になっている場合、かえって少し赤ちゃんと離れることでストレスが軽減されてホルモンが分泌されることもあり得ますしね。ケースバイケースかも。

 全3回にわたってお送りした「母乳の科学」。母乳で苦労した研究員Aの思い入れの深さがわかるってものです。でも、第1回でもお伝えしたように、決して母乳育児でなきゃダメ!と言いたいのではありません。現在母乳育児真っ最中の方、時にはくじけそうになることも多々あるでしょう。「夜中何回も起きてきて大変」とか、「ミルクをあげれば楽になるのに、なんでこんなに我慢しなくちゃいけないの?」とか。そんな時に、これを読んでor思い出して、励みになる方が一人でもいらっしゃったら、苦労した先人としては嬉しい限りです。

参考 産科と婦人科「授乳と内分泌」2000, Vol.67 No.2(157-290)
参考サイト がんばれ21世紀の子育て 読売新聞大阪本社
母乳育児への誘い
団藤保晴の記者コラム「インターネットで読み解く!」

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