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産後だって母子一体-母乳・母性・ホルモン-(2)

母乳の話の第二段です。前回は、母乳のメカニズムの不思議について中心にお話ししましたが、今回は、「ホルモン」に視点をおいて、母乳の話を展開していきたいと思います。最近明らかになった「授乳と記憶力の関係」をメインにご説明します。

母乳とホルモン

まずは、母乳とホルモンとのかかわりについてお話しします。さて、ホルモンってよく聞く言葉ですが、一体何でしょう?ホルモンの語源はギリシア語の『刺激する』が語源です。ホルモンは身体の各所から分泌される化学物質で、各細胞に指令を通達しているのです。身体を環境などに上手く対応させるために、なくてはならない物質なのです。
ホルモンは現在見つかっているものだけで、およそ70種類以上にものぼります。今回、母乳の話に登場するホルモンは次の3種類です。

*母乳とホルモン*
エストロゲン
授乳中減少↓
プロラクチン
授乳中増加↑
オキシトシン
授乳中増加↑

なんだか、横文字の羅列でイヤになっちゃいそうですが、少しだけ我慢して下さい。上のエストロゲンは毎月の月経に関わるホルモンですので、妊娠しない状態でも女性にとっては馴染み深いホルモンです。そして、妊娠時にはこの分泌は数十倍のレベルに跳ね上がります。下の二つ、プロラクチンオキシトシン「前編」にも登場したホルモンです。授乳にはこの2つのホルモンがなければ始まりません。

ホルモンと記憶力

「母乳育児中は記憶力が悪くなる」という話、皆さんは耳にしたことがありませんか?研究員Aは、内田春菊の漫画、「私たちは繁殖している(2)」で、「1日何度も授乳とシモの世話をくりかえす。育児にこれほど最適な状態もないのでは」とあるのを読んで、「なるほどな」と納得した覚えがあります。そして、実際に出産後の怒濤のような日々を経験して、ますますその思いを強くしたのでありました。確かに、一日中ぼんやりしているし、何か難しいこと考える気にもならないし。最近まで、「母乳あげている最中は記憶力が悪い」説を信じていたのです。
それが、驚くことに2001年末にその説の反対の結果を示す研究結果が報告されました。なんと、「授乳により母親自身の脳が活性化され、記憶力が向上する」というのです。この驚くべき結果は岡山大大学院の松井秀樹教授らの研究チームが突き止めたものです。それでは、その研究結果をご紹介しましょう。

授乳中のママの記憶力がup?

授乳中に分泌されるホルモンである「オキシトシン」、先ほど登場しましたね。これが、脳の「海馬」という部分にどのように作用するか調べた研究です。「海馬」とは、脳の記憶と学習に関わっているといわれている部位です。既に、「育児部門」の「3歳からでは遅すぎる?-早期教育-」で登場しています。
実験は次のとおりです。オキシトシンに浸したマウスの海馬の切片と、浸さなかった切片に電気刺激を与えて比較したのです。その結果、これに浸した切片の細胞は、浸していないものより、「長期増強」現象(LTP)の時間が3倍以上長くなることを実証しました。「長期増強」現象(LTP)って何?ということですが、これは記憶や学習の過程で起きる現象です。このLTPの時間が長くなったということは、脳細胞が活性化されて記憶力が高まったと考えられるのです。

「記憶力が悪くなる」説の真偽は?

じゃ、今までの「授乳中は記憶力が悪くなる」説はどういうこと?ってなりますよね。いろいろ研究員Aなりに文献やらネットであたってみたのですが、ずばり!の根拠となる説は見つかりませんでした。おそらく、次のような根拠で言われていた説なのではと予想されます。もしこの件に関してご存じの方いらっしゃったら、ぜひぜひメールで教えて下さい。
先に登場したエストロゲン。これは、最近アルツハイマーの治療に役に立つホルモンであると注目されています。エストロゲンを加えた場合、脳細胞であるニューロンが保護されて、ニューロンの死滅を大幅に減少させることができるのです。さらに、脳の情報を伝えるために必要な神経伝達物質を増加させる働きもあると報告されています。つまり、アルツハイマーに関係があるだけでなく、記憶力を向上させているのではないかと言われているのです。
そして、授乳中はプロラクチンオキシトシンが分泌されるせいでエストロゲンの分泌は抑えられてしまいます。授乳中はエストロゲンが少ない→記憶力が悪くなる、ということで「授乳中は記憶力が悪くなる」説が生まれたのではないでしょうか。
また、授乳中に分泌されるホルモンであるプロラクチン。このホルモンは、リラックスとともに眠気も誘うホルモンです。この眠気を誘うという作用も記憶力が悪くなることに一役かってそうですよね。

まだまだナゾが

さて、となると「授乳中の記憶力」に関してはまだまだ解明の余地がありそうな。確かに、乳児を育てる時期って実際のところ記憶力が悪くなっていたら困っちゃうとは思うのですが。子供を育てるという作業は、特に第一子の場合、覚えなければいけないことはたくさん。それに、いたいけな存在を守り育てなければならないのに、物忘れがひどくなってる場合じゃないという気もしますよね。
でも、産後の「頭に霧がかかったような状態」は何だったのだろう?という気もするのですよね。まあ、単に慣れない育児で疲れていたのと睡眠不足のせいという話もありますが。それに、所長に対して「授乳中は物忘れがひどくて。」という言い訳が通用しなくなるのも困るなあ。

あと、サイエンスを離れたところで研究員Aの勝手な予想をさせていただくと。。。「オキシトシンで海馬の機能が向上」という結果は、次のように解釈もできるのでは。
人間、慣れない環境に放り込まれるとストレスが増えますよね。新しい職場、引っ越し、などなど。でも、これに慣れてストレスが減るのは「記憶」のお陰だということは池谷裕二著「記憶力を強くする」で述べられている通りです。記憶力が良いほどストレスが減るのが早いのです。そして、授乳中に海馬の機能が向上するというのも、「ストレスに慣れやすくするため」ではないかと研究員Aは勝手に考えるわけです。赤ちゃんが産まれることって母親にとっては物凄い環境の変化です。そして、もちろんそれは大なり小なりストレスになります。さらに、授乳を必要とする乳児の間は、赤ちゃんの変化は目まぐるしいものです。昨日できなかったことが今日はできる。この激しく変化し続ける状況もストレスになり得ます。ホルモンで海馬の機能が向上する、ということは、母親にとってストレスを軽減させる役目を果たしているのではないかと思います。

この辺りはまだ未解明な部分が多いので、いろいろ考えることができて面白いですよね。皆さんはどのようにお考えになりますか?

参考 シアーズ博士夫妻のベビーブック W.&M.シアーズ著
記憶力を強くする 池谷裕二著
私たちは繁殖している(2) 内田春菊作
産科と婦人科「授乳と内分泌」2000, Vol.67 No.2(157-290)
参考サイト 読売新聞 か・ら・だ/け・あ

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