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内田麻理香プロフィール
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産後だって母子一体-母乳・母性・ホルモン-(1)

 研究員Aは妊娠してから「私って動物」と実感することが多くなりました。妊娠・出産・育児を通してますますケモノ化する研究員A。特に、母乳を研究員Bにあげるという授乳行為がますますケモノ化を促進していたような。母乳育児に苦労しただけあって、いろいろ調べたのですが、授乳行為を通した母子の関係はびっくりするほど良くできていることがわかりました。人間って哺乳類なんですね。間違いなく。今回は、母乳を母性とホルモンをキーワードに、3回に分けてレポートしてみたいと思います。

免疫物質や各種タンパク質などが含まれている母乳が、赤ちゃんにとって栄養的に素晴らしいものであることは、育児書などにも詳しく書かれているので、そちらにお任せします。カソウケンでは、母乳のメカニズムの面白さをメインにご紹介したいと思います。なお、このレポートは「母乳でなくちゃダメ」ということを伝えることがその目的ではありません

母乳生産のはじまり

まず、母乳が出る仕組みをざっと解説しましょう。妊娠中から母乳を生産するための準備は始まっています。妊娠末期には既に、いつでも「母乳分泌OK!」の状態なのですが、本格的な分泌はまだです。出産のときに赤ちゃんが産まれた後に後産といって胎盤も排出されますよね。その胎盤が排出されることが母乳分泌のゴーサインとなるわけです。

驚くべき新生児の本能

さて、出産直後の赤ちゃんはこの世に生まれでるという大仕事を成し遂げてぐったりしているのではと思われますよね。でも、実際は覚醒状態にあり、感覚が研ぎすまされています。このとき、お母さんのお腹の上に赤ちゃんを置くと、這うような動きをして、ほとんど何の助けもなく、ちゃんとおっぱいを探し出す赤ちゃんもいるのです。平均で生後8か月にならないとしないハイハイを産まれた直後にしてしまうのは驚きですよね。しかも、生後30分もたつと、赤ちゃんはこの行動をしなくなります。

また、赤ちゃんは乳首が口に触れるとくわえようとする仕種を見せます。原始的に備わった「吸てつ反応」というものです。この吸てつ反応はお母さんの子宮の中にいる時にも見られ、指しゃぶりをしている赤ちゃんもいます。ですから、生まれたときにすでに指にタコができている子もいるそう。
これらは、赤ちゃんが生存するために備わっている本能なのですよね。やっぱり生き物ってすごいです。

ちなみに研究員Bを産んだ産院でも、産後すぐに研究員Bを抱っこして、母乳をあげるということをさせてもらいました。しかしながら、彼は適当にくわえるそぶりをしただけでした。いきなりやる気のない態度を見せる研究員B。中には積極的に飲もうとする赤ちゃんもいるらしいですね。

生産量は赤ちゃんがコントロール

さて、赤ちゃんが産まれて母乳分泌のゴーサインがでました。だからといって、ぼ〜っとしているだけで母乳があふれ出てくるのではないのです。では、どうしたら母乳がたくさん出てくるのでしょうか?それは、すべて「赤ちゃんが吸うこと」にかかっています。赤ちゃんが吸うことで、プロラクチンオキシトシンという女性ホルモンの分泌の指令が出るのです。この二つの女性ホルモンも母乳をだすために重要なホルモンです。

赤ちゃんが吸う→プロラクチン分泌の指令→母乳が生産
さらに吸う→オキシトシン分泌の指令→母乳が絞り出される

そして、赤ちゃんが吸う頻度が多ければ、おっぱいの方は「ああ、赤ちゃんがたくさん欲しがっている」と判断して、母乳の生産が増えるのです。これは、需要と供給の原理に基づいています。母乳をたくさん作るためには一度の授乳で長時間吸ってもらうよりは、頻繁に吸ってもらった方が良いそうです。

よく、「3時間おきに授乳しましょう」と指導をする産院もあるようですが、母乳の生産のためには時間を気にせずに頻繁に授乳するのがポイントのようです。考えてみたら、時計を見ながら授乳するほ乳類って他にいないですよね。

あと、「母乳不足かしら?」とミルクを足してしまうのは、ますます生産を抑えることになってしまいます。ミルクをあげると赤ちゃんが吸う機会が減ってしまいます。ミルクは母乳に比べて消化が悪く、腹もちが良いのです。だから、赤ちゃんはお腹がすかなくなってしまってたくさん寝ます。こうして赤ちゃんが吸ってくれないと、おっぱいの方は「そうか、この赤ちゃんは母乳これだけでいいのね」と判断することになってしまうのです。足りないかな、と思うときは頻繁に授乳しましょう。まあ、簡単に言ってしまえばこうなんですが、実際はこの「頻繁に」が大変なんですけどね。一日中授乳以外していないような状態になってしまうので。

あと、成長期の節目節目で、赤ちゃんが「今までの量では足りない!」とばかりに頻繁に授乳を要求するようになるときがあります。これも頻繁に授乳することを数日続けることで、生産量が増すようになるのです。ほんと、上手くできていますよね。母乳の生産量の鍵を握っているのは赤ちゃんなのです。

オーダーメイド食品

あと、母乳の面白いところはTPO(?)にあわせてその内容が変化するという点でしょう。母乳の内容はいつでも同じではないのです。

赤ちゃんの空腹度に合わせる
赤ちゃんは、お腹がすいてしっかり食事をしたいときもあれば、単に「ちょっと喉が渇いたな」程度のときもあります。母乳はこの要求にもきちんと対応してくれるのです。授乳が始まったばかりのときは低脂肪でスキムミルクのような母乳です。そして、赤ちゃんが飲み続けるうちに脂肪分が増えていき、最終的にはクリームにも相当するような高脂肪乳になります。ですから、喉が渇いた程度のときは赤ちゃんは数分で口を離すのでスキムミルクを飲むことになります。お腹がすいているときは長い間飲むことになりますから、高脂肪乳を飲み、お腹いっぱいになって満足するのです。
赤ちゃんの成長に合わせる
そして、赤ちゃんの成長度にあわせて母乳の内容は劇的に変化します。出産直後に出る「初乳」。これは、見た目も黄色っぽく、後々になって出る母乳とは明らかに異なります。この初乳にはたくさんの白血球と感染と戦うタンパク質が含まれています。産まれたばかりの赤ちゃんはもっとも防御が弱いからです。
そして、赤ちゃんの成長にあわせて「移行乳」(初期以降の母乳)、「成乳」と変化するのですが、これらはそれぞれビタミンやミネラルの量が異なります。赤ちゃんの急速な成長とその変化に対するニーズに合っていくのですね。さらに、生後6か月を過ぎるようになると、自動的に脂肪の量が減っていき、「低脂肪乳」になります。これは、赤ちゃんの月齢が高くなると、急激な成長を必要としなくなるからなのです。まさにオーダーメイドです。
未熟児対応スーパーミルク
満産期よりも前に出産した母親の作る母乳は特別なものです。未熟児の赤ちゃん対応のスーパーミルクとなっています。通常よりも多くのタンパク質とカロリーが含まれているのです。未熟児の赤ちゃんが成長が追い付くために、特別な母乳を用意してあげているのです。母と子のメカニズムの不思議は、はかり知れないものがありますね。

「最新」の防衛システム

よく、「生後6か月までの赤ちゃんは風邪をひかない」という話を聞きますよね。これは、胎児のうちに母親から胎盤を通して抗体を受け取っているからです。抗体とは、体内に細菌が入ったとき、体がその細菌と戦うためにつくり出される軍隊です。母親がこれまでに作ったことのある「抗体」は胎盤を通して赤ちゃんにプレゼントすることができるのです。ですから、「生後6か月までの赤ちゃんは風邪をひかない」というのは正確な表現ではありません。「母親のかかったことのある風邪はひかない」という表現が正しいのです。だから、現実的には風邪をひいてしまいます。
さて、細菌が体内に入ったり風邪をひいてしまったとき、オトナは抗体をつくり出すシステムが完成しているので、自ら軍隊を出動させて細菌をやっつけることが可能です。でも、赤ちゃんはそのシステムが未熟です。そして、人のおかれる状況は常に変化しているので、お腹の中でもらった抗体のプレゼントだけでは不十分なのです。
でも、母乳をあげていれば、母親から常に環境に応じた新しい軍隊をプレゼントすることができます。母親と赤ちゃんはほぼ同じ環境で暮らしていますよね。ですから、母乳を通じて、その周りの環境と戦うための軍隊システムを、毎日毎日アップグレードしていることになるのです。

夜間授乳だってさて、母乳をあげているうちに赤ちゃんが寝付いてしまうことは多いです。これは、飲むのに疲れて、ということもありますが(特に飲むのが下手な新生児の時期)母乳の成分にも秘密が隠されています。母乳には、天然の「睡眠導入タンパク質」が含まれているのです。だから赤ちゃんは思わずうとうとし始めてしまうわけです。
一方、母親の方は母乳をあげていると出る女性ホルモンのおかげで、「リラックス」と「眠気」を得ることができます。ですから、自然の恩恵は辛い夜間授乳だって少しでも楽になるようにしてくれているのです。でも、この事実を知らなかった研究員A。慣れない授乳で緊張してしまって母乳をあげる度に目が冴えてしまってなかなか寝付けませんでした。あまりにも緊張し過ぎてせっかくの自然の恩恵を台無しにしてしまっていたのですね。勿体ないー。

母乳を飲んでいる間も脳が発達

母乳を飲んでいる赤ちゃんを、脳をのぞくことができるMRIという装置測定した結果があります。母乳を飲んでいる間は、大脳全体が活動しているのです。さらに面白いことに、目をつぶって母乳を飲んでいる間でも、前頭葉と視角野という部分が活動しているのです。目を閉じているのに視角野が活動しているという事実が不思議ですよね。
ちなみに、前頭葉というのは、「人間が宿る」といわれてる脳の部分です。「気力」「積極性」「自発性」「失敗を反省する」ことを司っています。前頭葉が発達している人がEQが高い、などという言われ方もされているようですね。知能指数IQがいくら高くても前頭葉が未熟であれば単なる点取り虫です。母乳を飲むという動作は、大事な前頭葉の発達にも役に立っていたということになります。

今回のおはなしは、出産を経験したことのある女性ならば、ご存じの内容が多かったかもしれません。次回は、「母性」と「女性ホルモン」のことを軸にして母乳のことをもっと詳しくご紹介したいと思っています。

参考 シアーズ博士夫妻のベビーブック W.&M.シアーズ著
東大講議人間の現在(1) 脳を鍛える 立花隆著
成長する脳の不思議 大島清著
産科と婦人科「授乳と内分泌」2000, Vol.67 No.2(157-290)

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