Home > 台所部門 > 生クリームの科学-泡立て(1)-

内田麻理香プロフィール
出版物 | 連載・依頼原稿 | テレビ・ラジオ出演 講演・講師など | 研究 | 審査員など | 協力企画 | 賞歴・メディア紹介歴

生クリームの科学-泡立て(1)-

お菓子作りの中で最もドラマチックな作業と言ったら「泡立て」。ただの液体だったものがむくむくと形を変えて、美しく真っ白なメレンゲや生クリームに。一番楽しい作業でもありますが、それだけに難しさも伴います。研究員Aなぞ、ガトーショコラ用のメレンゲの泡立てに失敗を繰り返し、卵を1ダースほど使ってしまったことも。 今回は、その「泡立つ」科学について知って、泡立てをマスターしてしまいましょう。

泡立ちのための2つの条件

 「泡立つ」とは、どんな状態を指すのでしょうか。これは、「液体の中に気体が入っている」状態です。でも、それだけでは「泡立った」ことになりません。泡のある状態がある程度持続しないとダメです。ですから、泡立ての条件は
・泡を立てる
・泡を持続させる
の2つが必要だといえます。

表面張力

 まず、1つめの条件の「泡を立てる」ですが、このためには「空気(気体)をたくさん抱え込む」ことが必要になります。そこでキーワードになるのが「表面張力」です。そこで、表面張力について少しお勉強してみましょう。
 表面張力は皆さん耳にしたことがある科学用語だと思います。表面張力とは、液体が表面を縮めようとする力です。表面は違う状態と接しているので、分子たちにしてみれば不安定なのです。ですから、分子たちは表面になりたくないので、表面積を小さくしようとするのです。表面積が一番小さい形は「球」。葉の上の水など見ると、広がらず「水滴」の形に丸くなっていますよね。あれは、表面張力のせいなのです。

界面活性剤

  表面張力が大きいと液体が空気と接しにくいので、空気をたくさん抱え込むためには不都合です。空気と接するということは、表面張力の大きい液体の分子たちとってみれば不安定なことなのです。実は水は表面張力の大きい物質で、水が泡立ちにくいのはこのせいです。そこで、界面活性剤にご登場願うことになります。

 界面活性剤は、「生活部門」の「洗剤の科学-界面活性剤-」で説明したものです。ここで、界面活性剤の作用として「水に濡れやすくする」働きがあることをご説明しました。これがすなわち表面張力を小さくする働きなのです。

 ここでやっと本題の「泡」に近付いてきたことにみなさんお気付きですね。そう、洗剤を使うときの泡は、表面張力を小さくしたおかげで空気をたくさん取り込めるようになったから生まれたものなのです。

エマルジョン

 ちなみに、洗剤のときは水の中に油が分散した状態ですが、泡立てた生クリームやメレンゲは液体の中に空気(気体)が分散した状態です。これを専門用語でコロイドといいます。「洗剤の科学」で「他にもいろいろある「ミセル」→「乳化」」とご説明し、牛乳・マヨネーズなどを例にあげましたが、このような状態にあるものを全てコロイドと呼ぶのです。

天然の界面活性剤-サポニン-

 洗剤の科学で、パスタの茹で汁が汚れを落とすのは天然の界面活性剤「サポニン」のおかげだと説明しました。茶筅でかき混ぜた抹茶が泡立つのもお茶に入ったサポニンの働き。そして、ペットボトルに入ったウーロン茶を振ると泡だってなかなか泡が消えません。これもお茶に含まれたサポニンの働きなのです。機会があったら試してみて下さい。 2つめの条件「泡を持続させる」 「表面張力」「界面活性剤」「エマルジョン」と科学用語が並んで疲れてしまったかもしれません。ここでやっと「泡立て」の2つ目の条件「泡を持続させる」ことに移ります。泡を持続させるための要素はさまざまですが、その一つは「粘性」です。かき混ぜたおくら・とろろ芋・納豆の泡がなかなか消えないのはあの「ねばねば」のおかげなのです。

生クリームの泡立ての立役者「乳脂肪」

「泡を立てる」「泡を持続させる」の2つの条件についてお勉強したので、次はやっと生クリームの泡立てについての説明に入ることができます。

 生クリームが泡立つのはひとえに「乳脂肪」のおかげです。生クリームは水分の中に乳脂肪が分散した状態で、泡立てる前から「エマルジョン」なのです。これを撹拌するとどうなるでしょうか?乳脂肪同士が激しく衝突して、集合します。乳脂肪同士が集合すると、とろみ(粘性)がつき始めるのです。

 この撹拌をさらに続けると、集合した乳脂肪が次々と繋がって網目の中に気泡を取り囲んだような骨格を作り始めます。泡立てた生クリームの中ではこのような「網目構造」が次々と形成され、全体が適度な硬さを持つホイップ状になるのです。

 乳脂肪が気泡を取り囲み、そして粘性もできて泡を安定化させる→生クリームが泡立つのは乳脂肪のおかげと言っても過言ではありません。だから、乳脂肪分の少ないコーヒー用クリームではホイップができないのです。

なぜ冷やしながらなの?

 この大事な乳脂肪、温度変化に影響を受けやすいデリケートなものです。温度が上がると脂肪が柔らかくなり過ぎて、しっかりした骨格を作れなくなるのです。ですから、少なくとも10℃以下に冷やしながら撹拌すると、きめ細かくなめらかな状態に泡立つといわれています。15℃以上になると気泡が大きくざらざら荒い状態になります。確かに、横着な研究員Aはいつも氷水を当てないでホイップするので、こんな状態のものが出来上がります。ひと手間が大事なんですね。

失敗したら手作りバターに

  生クリームはもともと液体に乳脂肪が分散したエマルジョンです。泡立てとはここにさらに空気を分散させる作業です。先客がいるので、空気を入れることは難しいことなのです。ですから、無理やり空気を詰め込み過ぎると、乳脂肪が他の成分から分離してしまいます。そうなるともう取り返しがつきません。開き直って泡立てを続けて下さい。そうすれば、手作りバターとして楽しむことができます。

 たかが「泡立て」ですが、こうしてみると「表面張力」「界面活性剤」「エマルジョン」と科学がいっぱいです。長くなったので、お菓子作りの泡立ての双璧の一方「メレンゲ」は次回にさせてくださいませ。

参考文献  お菓子「こつ」の科学 河田昌子著
参考サイト 鈴木クニエのてくてく
ママとサイエンス

Home > 台所部門 > 生クリームの科学-泡立て(1)-

Search
Feeds

Return to page top