上野公園に西郷隆盛像があるのはよく知られているが、野口英世像があるのはご存じだろうか。手にした試験管を高々と掲げ、厳しい目線でそれを見つめている。世界的に著名な細菌学者であり、子ども向け伝記での登場回数もずば抜けて多い「偉人」である。しかし、現在は彼の業績の多くが否定されており、その私生活の破天荒ぶりが取りあげられることも少なくない。栄光と汚辱の両極端にまみれた科学者であろう。
野口は黄熱病の研究で命を落とした。彼は黄熱病と思われる病原体を特定した。そこから「野口ワクチン」が開発されて、南米での黄熱病の流行が収まった。しかし、野口が特定した病原体は黄熱病由来ではなかった。野口ワクチンはアフリカでの黄熱病に効果がない、など自分の研究結果の反証が出て焦る彼は、黄熱病が流行していたアフリカに乗り込み、そこで殉職した。
貧困のために思うように勉学ができない。学歴がないため学閥による差別を受ける。米国に渡っても、珍しい日本人ということで揶揄される。彼の研究対象は、研究者の命にも関わりかねない対象が殆どだ。これは他の人が関わろうとしない危険な病原体しかテーマにできない、という彼の立場も物語っている。その状況の中、猛烈な勢いで勉学・研究に励み、手段を選ばず地歩を固めていったのだ。そんな彼は、様々な欠点を差し引いてもやはり「偉人」だと思う。
私は、敬意を持って野口英世の千円札の肖像を眺める。
平成21年6月2日(火)掲載